2024年4月より中野医師の診察が月曜日のみとなりました。患者様にはご不便をおかけしますが、ご確認よろしくお願いいたします。

桂枝湯について(1)

『傷寒論』は中医界で初めて成立した処方に関する書物であり、その中で特に重要な地位を占めるのが桂枝湯です。これは中医の理論、法則、方策、薬物の弁証論治の理論体系に基づいて応用され、その先駆けとなったものです。

桂枝湯という名前を聞くと、一般的に最初に思いつくのは、太陽中風証(風邪を引いた際の初期症状)を主に治療するという役割です。実際、『方剤学』という中医の教科書でも、桂枝湯は辛温解表(外から侵入した邪気を体外に出す)の処方の一部として紹介されています。特に中医学を初めて学ぶ人たちにとっては、このような印象が強いかもしれません。

しかし、実際には桂枝湯の解表の働きは、その全体から見ると一部分に過ぎません。桂枝湯にはさらに広範で、さらに重要な作用がありますが、これを重視し、研究しないのは非常に残念なことです。この点について、私は『傷寒論』と『金匮要略』を根拠にして、仲景の桂枝湯に対する用法を詳しく紹介し、参考に供したいと思います。

桂枝湯を解表に用いる際、それは発汗剤ではなく解肌剤である。

『傷寒論』には、桂枝湯を解表に用いている論文が21篇あります。これらを詳細に読むと、桂枝湯を解表に用いる際には、服薬方法に関して特別な要求があることがわかります。まず、服薬した後すぐに熱い稀粥を飲むことで、薬力を助けることが必要です。次に、体を暖めるために適当な布団を掛けて、約2時間程度休むことが求められます。これらは全身がほんのりと汗をかくことを目指しています。

しかし、これらの要求は、桂枝湯が元々発汗剤ではなく、解肌剤であるためです。発汗剤とは体内の邪気を汗とともに排出するもので、麻黄湯のように強く汗をかく作用があります。一方、解肌剤とは体表面の営衛(身体を防衛する気)を調整し、皮膚の間隙を広げて邪気を汗とともに排出する働きがあります。解肌と発汗は似ているようで異なり、二者を混同してはなりません。これは理論の問題だけでなく、桂枝湯をどのように正確に理解し、使用するかという実践に直接関わっています。

発汗と解肌の違いは以下のとおりです:

発汗は薬力によって皮毛や毛孔から体外に汗を出すことで邪気を排出する作用です。一方、解肌は薬力によって表の営衛(機能)を整えて肌を疏通させ、邪を汗とともに出すことで証を改善する作用です。

つまり、発汗は外邪を強制的に排出しますが、解肌は表の営衛を調和させて自然に邪が出ていくことを促します。発汗と解肌は同様の効果を生むように見えますが、その作用機序は異なります。仲景が桂枝湯を用いる際、特別な服薬方法を求めるのは、桂枝湯が発汗剤ではなく解肌剤であるためです。

桂枝湯の主薬は桂枝であり、補助薬は芍薬です。芍薬は苦酸寒の補益・収斂(体内の気を固定する)の性質があります。さらに、補助薬として大棗を加えています。これは、麻黄を主薬とする麻黄湯とは全く異なっています。麻黄湯は皮毛を開放し、強い汗を出させます。一方、桂枝湯は営衛を調整して解肌します。

桂枝湯には営衛を調和させる作用がある。

桂枝湯は解肌することができますが、これは桂枝湯の営衛を調和させる作用の一部です。桂枝湯は太陽中風証による営衛の不和を治療できますし、営衛の不和による様々な症状も桂枝湯で治療できます。例えば『傷寒論』では、自然に汗が出る症状は営衛の不和から来るもので、桂枝湯が適していると述べられています。

桂枝湯を用いるときには、熱い稀粥を啜る必要があるのは、その作用が解肌であるためです。この熱い稀粥を啜ることで薬力を助け、さらに体を暖めて汗を出すことで病気が治るとされています。

桂枝湯には脾胃を調和させ、陰陽を調和させ、温中補虚・滋壮気血の作用がある。

桂枝湯には上記のような効能がありますが、日常的には見過ごされがちです。しかし、この処方にはさらに広範で重要な作用があることを強調しておきたいと思います。

  1. 脾胃を調和させる

『金匱要略』には、桂枝湯を用いて脾胃を調和させ、妊娠悪阻(悪心や嘔吐などの妊娠初期の症状)を治療した例が記載されています。

  1. 気血を滋壮する

桂枝湯の中で、桂枝と芍薬が主要な薬物です。桂枝は陽、芍薬は陰で、桂枝は開散し、芍薬は収斂するという働きがあります。両薬を等量で配合することで、陰陽や気血を調和させながら、大いに気血を滋壮し、虚を補います。